らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

テンソル積 (5)

テンソル積(2) - らんだむな記憶 の有限次元ベクトル空間同士のテンソル積の例を思い出そう。このテンソル積が Kronecker 積 (2) - らんだむな記憶 で触れた Topological Vector Spaces, Distributions and Kernelsテンソル積の定義を満たすことを確認する。
「ベクトル解析30講」を紐解きつつ、$M = V \otimes_K W$ と置く。$v \otimes w = \phi(v, w): (\tilde{x},\tilde{y}) \mapsto v(\tilde{x})w(\tilde{y}),\ \tilde{x} \in V^*,\ \tilde{y} \in W^*$ と置く。$\{v_1, \cdots, v_r\}$ を $V$ の一次独立な集合、$\{w_1, \cdots, w_r\}$ を $W$ の集合とし、$\sum_{i=1}^r \phi(v_i, w_i) = 0$ とおく。この時、$\tilde{y} \in W^*$ を任意にとり $v^i \in V^*$ を $v_i$ の双対基底とすると、

\begin{align*}
0 = \sum_{i=1}^r \phi(v_i, w_i)(v^j, \tilde{y}) = w_j (\tilde{y})
\end{align*}

を得る。$\tilde{y}$ の任意性から $w_j = 0$ であり、同様にして $w_1 = \cdots w_r = 0$ を得る。よって、$V$ と $W$ が $\phi$-線型無関連であることが分かる。
また、「ベクトル解析30講」pp.33-35 の議論により、$\{v_i \otimes w_j\}_{1 \leq i \leq m, 1 \leq j \leq n}$ は $M$ の基底となるので、$V \times W$ の $\phi$ による像は $M$ を張っている。
以上で、「ベクトル解析30講」で定義したテンソル積は Kronecker 積 (2) - らんだむな記憶 の意味でのテンソル積にもなっていることが分かった。「ベクトル解析30講」ではより簡単で直接的な方法でテンソル積を構成しているのである。

さて、上記は 飽きたらやめようGalois理論(22)とテンソル積(1) - らんだむな記憶 で定義した $A$-加群(ここで $A$ は環)としてのテンソル積であろうか?これについては、$A$ を $K$ つまり体とする時には $K$-加群とはつまり $K$-ベクトル空間のことであることを思い出そう。確認すべきは定義 (2) の「普遍性」の部分である。ところで、Topological Vector Spaces, Distributions and Kernels の定理 39.1 (b) は $K$-加群としての「普遍性」を主張するものであった。以上から、先の主張は真であることが示された。

<書籍紹介> 代数入門(堀田良之 著)【数学】 p.132 定理 23.1 では $R$-加群の場合のテンソル積について性質が挙げられているが、これを見ても、より抽象的な代数構造を扱うほどに「普遍性」を切り口としたアプローチが重要性を増すことが分かる。