らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

テンソル積(2)

テンソル積はとても苦手なのでもう少し見てみよう。今度は「ベクトル解析30講」を参照する。
$K= \R \ \text{or}\ \C$ として $K$ 上の有限次元ベクトル空間 $V,W$ をとってみよう。前回はただの $A$-加群を前提としたわけだが、一般に自由加群であるとは限らないので基底の概念が導入できるとは言えないが、有限次元ベクトル空間であれば基底が導入できるし、双対基底を用いて双対空間を具体的に構成できる。
$V = (V^*)^*$ と見ることで、 $V$ は $V^*$ の双対空間として見ることができることに注意しよう。

さて、 $V,W$ の双対空間 $V^*,W^*$ を考える。
$V^* \times W^* \to K$ なる双線型函数を考える。このような双線型函数全体のなす空間を $V \otimes_K W$ と書くことにしよう。
$\{v_1, \cdots, v_m\}$ を $V$ の基底とし、 $\{w_1, \cdots, w_n\}$ を $W$ の基底とする。この時、 $V^*$ と $W^*$ の双対基底を $\{v^1, \cdots, v^m\}$ と $\{w^1, \cdots, w^n\}$ としよう。
実はこの時、 $(v_i \otimes w_j)(\tilde{x},\tilde{y}) := v_i(\tilde{x})w_j(\tilde{y}),\ \tilde{x} \in V^*,\ \tilde{y} \in W^*$ と置くと、 $\{ v_i \otimes w_j \}$ は $V \otimes_K W$ の基底となる。

\begin{array}.
\varphi: &V \times W &\to &V \otimes_K W \\
&(v_i, w_j) &\mapsto & v_i \otimes w_j
\end{array}

と定める。 $\varphi$ は既に双線型写像になっている(!)
さて、 $U$ を $K$-ベクトル空間とし、 $f: V \times W \to U$ を $K$-双線型写像とする。

\begin{array}.
\tilde{f}: &V \otimes W &\to &U \\
&v_i \otimes w_j &\mapsto & f(v_i,w_j)
\end{array}

とおくと、明らかに $\tilde{f} \circ \varphi = f$ である。 $\{ v_i \otimes w_j \}$ は $V \otimes_K W$ の基底となることから、このような $\tilde{f}$ も一意であることが分かる。
有限次元ベクトル空間の場合には、とても具体的にテンソル積を構成できてしまった!

―――――・・・

●抽象代数的テンソル積との比較
勿論 $K$ は環であり、 $V,W$ は $K$-加群でもあるので、 $A$-加群の時と同様に抽象代数学としても $V$ と $W$ のテンソル積は定義できるのだが、これらが有限次元ベクトル空間の場合にはその基底を用いて、具体的にテンソル積 $V \otimes_K W$ が構成できる。しかも $K$-加群と考えて抽象的に構成したテンソル積と一致することになる。

●さらなる高みへ...
そして、一般に $V$ についての $k$-次のテンソル積を構成し、それらの無限直和を考えることでテンソル代数が構成される。有限和だと積の演算が閉じないが、無限和にすることで積で閉じるようになるので代数(多元環)として存在できるようになるのだ。
この種の考えは擬微分作用素にも見られる。作用素の階数について負の無限大から正の無限大まで合併をとることで積で閉じさせられる。

ここまで来ると、“あまり興味がないもの” を寄せ集めて作ったイデアルで親玉の代数を割ってあげると、その代数を象徴づけるような核の部分が現れる。テンソル代数をそのイデアルで割ることで H.G. Grassmann の外積代数が得られる。これは3次元数ベクトルのベクトル積と非常に良く似た演算を持つような代数となる。そして微分形式を経て多様体へと...。

微分作用素の場合では平滑化作用素のなすイデアルで割ることで素晴らしい擬微分作用素の *-代数が得られる。