らんだむな記憶

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Kronecker 積 (2)

Kronecker 積 - らんだむな記憶 の続き。Kronecker 積とテンソル積の関係を見たい。

(抽象的な)テンソル

ベクトル空間のテンソル積の定義として Topological Vector Spaces, Distributions and Kernels の p.403 のものを使う。

定義 $E, F, M$ をベクトル空間とする。$\phi: E \times F \rightarrow M$ を双線型写像とする。この時、$E$ と $F$ が $\phi$-線型無関連であるとは次が成立する時を言う:

  • $\{x_j\}_{1 \leq j \leq r}, \{y_k\}_{1 \leq j \leq r}$ をそれぞれ $E$ と $F$ の有限な集合とし、関係 $\sum_{j=1}^r \phi(x_j, y_j)$ を満たしているとする。この時、
    • $\{x_j\}_{1 \leq j \leq r}$ が一次独立であれば $y_1 = \cdots = y_r = 0$ であり、
    • $\{y_j\}_{1 \leq j \leq r}$ が一次独立であれば $x_1 = \cdots = x_r = 0$ である。

定義 $E, F, M$ をベクトル空間とする。$(M, \phi)$ が $E$ と $F$ のテンソル積であるとは、$M$ がベクトル空間で $\phi: E \times F \rightarrow M$ は双線型写像であり、次の性質を満たす時を言う:

  • $E \times F$ の像が $M$ を張る。
  • $E$ と $F$ は $\phi$-線型無関連である。

今回は $E$ と $F$ について有限次元とする。無限次元とする場合、基底の存在の証明に Zorn補題を使うことになるが、ちょっともやもやするのと、Kronecker 積との関連を見るのにそこまでは不要だからである。

Kronecker 積

簡単のため、$\C^2$ と $\C^3$ を考える。$\phi(x, y) = x \otimes y$(Kronecker 積)とし、$(\C^6, \otimes)$ が上記の意味でテンソル積になっていることを見る。
まず、$(1, 0)^T \otimes (y_1, y_2, y_3)^T + (0, 1)^T \otimes (y^\prime_1, y^\prime_2, y^\prime_3)^T = (y_1, y_2, y_3, y^\prime_1, y^\prime_2, y^\prime_3)^T$ であるので、$\C^2, \C^3$ の $\otimes$ による像が $\C^6$ を張っていることが分かる。

次に、2 つ目の条件を確認する。$\{x_j\}_{1 \leq j \leq 2} = \{(x_j^1, x_j^2)^T\} \subset \C^2$ を一次独立になるようにとり、$\{x_k\}_{1 \leq k \leq 2} = \{(y_k^1, y_k^2, y_k^3)^T\} \subset \C^3$ をとる。$\sum_{j=1}^2 x_j \otimes y_j = 0$ とする。直接計算により、

\begin{align*}
\begin{pmatrix}
x_1^1 y_1^1 + x_2^1 y_2^1 \\ x_1^1 y_1^2 + x_2^1 y_2^2 \\ x_1^1 y_1^3 + x_2^1 y_2^3 \\ x_1^2 y_1^1 + x_2^2 y_2^1 \\ x_1^2 y_1^2 + x_2^2 y_2^2 \\ x_1^2 y_1^3 + x_2^1 y_2^3
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
\end{align*}

となる。これを $y$ の成分に着目して並び換えると、例えば第 1 成分と第 4 成分を取り出して組み合わせると

\begin{align*}
y_1^1
\begin{pmatrix}
x_1^1 \\ x_1^2
\end{pmatrix}
+ y_2^1
\begin{pmatrix}
x_2^1 \\ x_2^2
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0 \\ 0
\end{pmatrix}
\end{align*}

を得る。ところで、$x_1$ と $x_2$ は一次独立であったので、$y_1^1 = y_2^1 = 0$ となる。他のケースも同様にして $y_1 = y_2 = 0$ を得る。よって、$\C^2$ と $\C^3$ は $\otimes$-線型無関連であることが分かる。$\C^3$ から一次独立な集合をとりだすケースの計算も同様である。

以上より、$\C^2$ と $\C^3$ の Kronecker 積 $\C^6$ はテンソル積になっていることが分かった。このことから、量子プログラミングの書籍等で Kronecker 積による定義でテンソル積と呼んでいることの妥当性も理解できる。