らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

圏論(31)と単項イデアル(主イデアル)

$\mathbf{C} = \mathbf{P}$ というposetベースの category の場合。 $p \in \mathrm{Ob}(\mathbf{P})$ をとる。
\begin{equation}
\downarrow\!(p) :=
\begin{cases}
\text{objects:}\ q \le p \\
\text{arrows:}\ f: q_1 \to q_2, \,\,\,\text{for}\,\,\, q_1 \le q_2 \,(\le p)
\end{cases}
\end{equation}

という記号を導入する。この時、 $\downarrow\!(p)$ は $\mathbf{P}$ の subcategory になっている。
また、poset では、$f: q_1 \to q_2 \iff q_1 \le q_2$ であったことに注意しておく。*1

Proposition

slice category $\mathbf{P}/p$ に対して、categories の isomorphism
\begin{equation}
\mathbf{P}/p \cong\, \downarrow\!(p)
\end{equation}

が成立する。${}_\square$

... らしい。圏論(14) - らんだむな記憶でも触れたように、categories の間の isomorphism は厳密には未定義... というか、functors を arrows として見るような視点の変更でほぼ自明に定義は定まるのだが、identity arrow に対応する identity functor が未定義。これもまぁ、ほぼ自明でFunctor - Wikipedia, the free encyclopediaにあるように

Identity functor: in category $\mathbf{C}$, written $1_\mathbf{C}$ or $id_\mathbf{C}$, maps an object to itself and a morphism to itself. Identity functor is an endofunctor.

というものだ。圏論(10) - らんだむな記憶で触れたことを視点変更して、$\mathbf{Cat}$ での話として見れば、

Definition 1.3'. categories の category $\mathbf{Cat}$ において、functor $F: \mathbf{C} \to \mathbf{D}$ が isomorphism (同型射) であるとは、ある functor $G: \mathbf{D} \to \mathbf{C}$ がとれて
\begin{equation}
G \circ F = 1_\mathbf{C} \,\,\,\text{and}\,\,\, F \circ G = 1_\mathbf{D}
\end{equation}

が成立するときを言う。 $\mathbf{C}$ が $\mathbf{D}$ に isomorphic ($\mathbf{C} \simeq \mathbf{D}$ と書く) であるとは、それらの間の isomorphism が存在する時を言う。

―――

と読み替えれば良いことが分かる。*2

proof of Proposition

● Functor $F$

  • $\mathbf{P}/p \ni [f: q \to p] \mapsto q \in \downarrow\!(p)$
  • $\mathbf{P}/p \ni \mathbf{a} = (a,1_p) \mapsto a \in \downarrow\!(p)$

\begin{equation}
\begin{CD}
q_1 @> a >> q_2 \\
@V f VV \circlearrowright @VV f^\prime V \\
p @= p
\end{CD}
\end{equation}

(この可換図式が性質する時点で $q_1 \le q_2 \le p$ が成立していることに注意。)

● Functor $G$

  • $\downarrow\!(p) \ni q \mapsto [f: q \to p] \in \mathbf{P}/p$
  • $\downarrow\!(p) \ni a \mapsto \mathbf{a} = (a,1_p) \in \mathbf{P}/p$

とするとき、 $G \circ F = 1_{\mathbf{P}/p}$ および $F \circ G = 1_{\downarrow(p)}$ は自明である。${}_\blacksquare$

このことから、$\mathbf{P}/p$ は「主イデアル (principal ideal)」$\downarrow\!(p)$ に過ぎないとある。
――― 主イデアルよりも「単項イデアル」という表現のほうに馴染みがあるが。だが、英語の表現だと、principal ideal だけのようだから、本当は「主イデアル」で統一しておいたほうが間違いがなくて良いのかもしれない。整数環 $\Z$ なども「単項イデアル整域である」という時に略して「PID (principal ideal domain) である」などと書いたりするので、「主イデアル整域」とか言ったほうがより適切なのかもしれない。だが、日本では「単項イデアル」で定着しているように感じる。

*1:Haskell風味に書くなら、lessという関数があるとして、「less q1 q2」に中値を適用したもの「q1 `less` q2」とは等価であった。$q_1,q_2 \in \{ 0, 1 \}$ として $$\le\ q_1\ q_2 \iff (q_1 \le q_2)$$ と解釈して、前置(ポーランド記法)の時の alias が含意 $f \,\,\text{or}\,\, \to$ なんだ!と思っても良いかもしれない。うん、これは分かりにくいことを書いてみた!偶然かもしれないけど、そう考えた時に、含意 $\to$ の真理値とうまく合致するなぁ??

*2:少なくともこれくらい類推できないようなら帰れってことかな...。一から十まで手取り足取りの圏論本はいまのところないように見える。と言うか、Mac Lane本でも和訳が出たのは 2005年でごく最近だと思っている。原書の初版は1971年だからこんなむっずかしい本で勉強したものなのかな...。Awodey本も初版からして2006年だからとっても最近。初めて圏論の触りを習ったのが1997年頃だが、何それ?でスルーしたものの、あの頃手にするならMac Laneの原書初版とかホモロジー代数の本くらいしかなかったのでは... と怯えてしまう。