らんだむな記憶

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量子ビット

Pauli 行列と量子ビット - らんだむな記憶 が気になったので、もう少し調べた。

量子力学の教科書から

現代量子力学入門 - 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 p.94 によると、スピンは observable なので行列形式の取り扱いだけが可能とのこと。スピン $s=1/2$ の粒子の時には、互いに線型独立な状態が 2 つ許容され、基本状態の組が以下のように表すことができると。

\begin{align*}
\varphi_\uparrow^{(z)} = \varphi_{\frac{1}{2}\frac{1}{2}} = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix},\quad \varphi_\downarrow^{(z)} = \varphi_{\frac{1}{2} (-\frac{1}{2})} = \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix}
\end{align*}

こういったスピン上向き状態とスピン下向き状態を任意に線型結合させたものを qubit (量子ビット) と呼ぶ旨が書いてある。
p.207 第 10 章に飛ぶと、 $n$ 個の量子ビットからなる系では $2^n$ 次元のヒルベルト空間を使う旨がかかれており、Kronecker 積によって、$n$ 個の量子ビットテンソル積が $2^n$ 次元のベクトルになっていることと対応してそうだ。p.208 には「これらの応用は、すべて 2 次元のヒルベルト空間を用いるものである。したがって本章の叙述は、5.2.2 項 (p.93) に与えてあるスピンを扱うための形式が前提となる」という感じでスピンの話に寄せている。また「量子ビットはスピン $s=1/2$ の粒子によって表現されるが、その他に光子の 2 通りの編極状態を利用したり、一般の量子系において孤立した 2 つの準位を利用すること*1なども可能である。」とある。

これはこれくらいにしておいて、

定番の「量子コンピュータと量子通信」から

量子コンピュータと量子通信Ⅱ -量子コンピュータとアルゴリズム- | Ohmsha を見ると、p.145「第 7 章 量子コンピュータ: 物理的実現法」に色々と書いてある。ここでは、量子ビットの実装としてほんの一部のアイデアとして

  • 単純な調和振動子 (p.153〜)
  • 光子と非線形光学媒質 (p.159〜)
  • 共振器量子電気力学デバイス (p.172〜)
  • イオントラップ (p.188〜)
  • 分子の核磁気共鳴 (p.207〜)

が挙げられている。p.146 によると、Stern-Gerlach の実験*2により自然界に量子ビットが存在する証拠が得られたとある。そして量子ビットに「何かロバストな物理的表現を与えると同時に、望み通りに時間発展できるシステムを選ばなければならない」とある。極論ではコインの表と裏があるのでビットは表現できるが、長時間重ね合わせ状態をとれないので量子ビットとしてはまずいとのこと。スピンについては前述の本でも触れられていたが「単一角スピンは外部磁場に平行と反平行の重ね合わせが長時間 — 数日も — 続くので非常に良い量子ビットである」としながらも「しかし外部との結合が弱く単一核スピンの方向の測定が困難なので、各スピンから量子コンピュータを構築するのが困難である」としている。困難ではあるが p.148 には「例えばスピン 1/2 の粒子は状態 $\ket{\uparrow}$ と $\ket{\downarrow}$ が張る Hilbert 空間に存在する。スピン状態がこの 2 次元空間以外には存在し得ないため十分に孤立化していると、理想に近い量子ビットになる」とも書かれている。*3

と、スピンについては観測面や制御面で問題はあるものの、そこがうまくできるなら・・・という思いから、p.188〜 で「イオントラップ」「分子の核磁気共鳴」が扱われている。

このような感じで、量子ビットが実現できれば量子力学的な性質を用いて大量の情報を扱えるのに・・・ということらしい。

現時点での量子コンピュータ

量子コンピュータと量子通信」は 2004 年の本なので少々古いのだが、IBM Quantumで学ぶ量子コンピュータ によると、「2010 年代に一気にハードウェアの開発が進み、2020 年の時点ではハードウェアメーカーが複数の量子コンピュータの商用マシンの本格稼働に向けて開発を行っている」といった近年の進展が書かれている。

現時点でよく聞くものとしては IBM Quantum と、その上で計算をする Python フレームワークの Qiskit だと思う。

といった記事によると、IBM は 2000年代半ばから超伝導量子ビットの研究を進めていたとのことで、この IBM Q は「超伝導方式」ということで現在注目されているらしい。IBM Quantumで学ぶ量子コンピュータ によると、既に触れた「イオントラップ方式」や「光量子コンピュータ」もあると書いてあり、「超伝導方式」と「イオントラップ方式」は基本的なプログラミニングは方式は同じとのこと。光量子コンピュータは計算原理もプログラミング方式も大きく異なるとのことで注意が必要だ。確かまだあまり多くの量子ビットを扱える状態にはなかったと記憶しているが、これは年々改善していくのだろう。

ということで、調べたことを雑に列挙したが、結局量子ビットとは何か?という点ではよく分からない感じにはなってしまった。

結局量子ビットとは?

ある求める性質を満たす抽象的な概念が「量子ビット」ということになり、それは数学的には有限次元の Hilbert 空間の要素ということになる。これは Stern-Gerlach の実験により物理的には自然界に存在する証拠が得られたが、いざ実装しようとすると困難な課題も多いということのようだ。核スピンの観測面・制御面の課題がクリアできればこれは良い量子ビットになるもののまだ難しそうであると。一方、それとある種の互換性のある超伝導方式の量子コンピュータはある程度まで実現されて、実際に触れる状態にまで来ている。

ここから強引に、「量子ビットとは、いい感じに観測・制御できるようになった核スピンの状態として有限次元 Hilbert 空間上で表現されたもの」とか考えておくと、ちょっとイメージがわくかもしれないな・・・ということにしてしまいたい。

*1:量子コンピュータと量子通信Ⅱ -量子コンピュータとアルゴリズム- | Ohmsha のコラム 7.1 など。

*2:現代量子力学入門 - 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 p.7 など。

*3:コラム 7.1 ではいわゆる井戸型ポテンシャルを持った Schrödinger 方程式の離散スペクトルに対応する固有状態が扱われている。この中の 2 つの最低エネルギー準位の重ね合わせの係数から量子ビットを構築する話が出ているが、コヒーレンス劣化のため井戸の深さが有限では、そして現実の物理システムでは有限となるため、良い量子ビットにならないことが書かれている。