らんだむな記憶

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Legendre変換

Lagrangian 或いは Lagrange 方程式を Hamilton の正準方程式に変換する際に突如現れて、変換が終わると去ってしまう Legendre 変換。ルジャンドル変換 - Wikipediaを見ると物理で大活躍 (?) の様子。熱力学には疎いのでよく分からない。
Mathematical Methods of Classical Mechanics | V.I. Arnol'd | Springerを紐解いて見ると大体 Wikipedia と似たような内容が書いてあるが p.61 の概要のところに「Legendre 変換は射影双対と代数幾何学の接空間の座標系と解析学の共役 Banach 空間の構成と関連する。そして物理学 (例えば熱力学的な量の定義において) よく現れる」といった感じのことが書いてある、ように思う。熱力学の事例については Wikipedia にもあるので共役空間の話について少し調べてみたい。Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations | Haim Brezis | Springerが例えばそのネタについて触れている本で、目次には記載がないが p.11 の欄外脚注にその旨の記載がある。

定義
$E$ を位相空間とする。函数 $\varphi: E \to (-\infty,\infty]$ が下半連続 (l.s.c.) であるとは、任意の $\lambda \in \R$ に対して集合 $\{ \varphi \leq \lambda \} = \{ x \in E;\ \varphi(x) \leq \lambda \}$ が閉であるときをいう。

この時、以下のことが成立するらしい。

命題
$\varphi$ が l.s.c. $\iff$ 任意の $x \in E$ と任意の $\varepsilon > 0$ に対し、 $x$ のある近傍 $V$ が存在して $y \in V$ に対して $\varphi(y) \geq \varphi(x) - \varepsilon$ が成立する。

これについて確認しよう。
$(\Rightarrow)$ $x \in E$ と $\varepsilon > 0$ を任意にとり固定する。$\varphi(x) = \infty$ の場合を見る。$\bigcup_{n \in \Z} \{ y \in E; \varphi(y) > n \}$ は開集合であるので、$V = \{ y \in E; \varphi(y) = \infty \}$ は開集合である。次に、$\varphi(x) < \infty$ とする。$\lambda = \varphi(x) - \varepsilon/2$ とおく。$V = \{ y \in E;\ \varphi(y) > \lambda \}$ とおくと、これは開集合であり $x \in V$ である。よって、 $V$ は $x$ の近傍である。
$(\Leftarrow)$ $\lambda \in \R$ を任意にとり固定する。$\varphi(x) > \lambda$ であるような $x \in E$ を任意にとる。$x$ のある近傍 $V$ がとれて $y \in V$ の時 $\varphi(y) > \lambda$ であることを示せば良い。$\varphi(x) = \infty$ の時、仮定よりある $x$ の近傍 $V$ に対して $y \in V$ で $\varphi(y) = \infty$ なので条件を満たす。次に $\varphi(x) < \infty$ とする。$\lambda^\prime = \max\{1, 2\lambda\}$ とおく。$\varepsilon = \varphi(x) - \lambda^\prime$ とおくと仮定より $x$ のある近傍 $V$ が存在して $y \in V$ に対して $\varphi(y) \geq \varphi(x) - \varepsilon = \lambda^\prime > \lambda$ が成立する。${}_\blacksquare$

特にこの時、$\varphi$ が l.s.c. であれば、$(x_n) \in E$ が $x_n \to x$ の時 $\liminf_{n \to \infty} \varphi(x_n) \geq \varphi(x)$ であり、$E$ が距離空間の時、逆も成立する。

最初の主張については、任意に $\epsilon > 0$ をとる時、$x$ のある近傍 $V$ に対して、$x_n \in V$ となるところから先は $\varphi(x_n) \geq \varphi(x) - \varepsilon$ であるの。そのようになるインデックスを $N \in \N$ として $\inf_{n>N} \varphi(x_n) \geq \varphi(x) - \varepsilon$ が成立する。両辺の $\lim_{N \to \infty}$ をとると $\liminf_{n \to \infty} \varphi(x_n) \geq \varphi(x) - \varepsilon$ であるが $\varepsilon > 0$ は任意であったので、$\liminf_{n \to \infty} \varphi(x_n) \geq \varphi(x)$ である。 逆の主張については $\varepsilon > 0$ を任意にとり固定する。どんな $n \in \N$ に対しても $\mathrm{dist}(x, x_n) < 1/n$ であって、 $\varphi(x_n) < \varphi(x) - \varepsilon$ となるような $x_n$ がとれるとする。この時、$x_n \to x$ であるが $\liminf_{n \to \infty} \varphi(x_n) \leq \varphi(x) - \varepsilon$ となる。これは仮定 $\liminf_{n \to \infty} \varphi(x_n) \geq \varphi(x)$ に反するので、ある $n_0$ がとれて $\mathrm{dist}(x, y) < 1/n_0$ を満たすような $y$ に対しては $\varphi(y) \geq \varphi(x) - \varepsilon$ が成立する。${}_\blacksquare$

ざっくりと位相空間上の下半連続函数の性質を見たところで、Brezis の本における Legendre 変換の定義を眺める。

定義 $E$ をノルム空間とする。
$f: E \to (-\infty,\infty]$ を $f \not\equiv +\infty$ であるような函数とする。共役函数 $f^*: E^* \to (-\infty,\infty]$ を $f^*(p) = \sup_{x \in E} \{ \langle p,x \rangle - f(x) \} \quad (p \in E^*)$ で定義する。

このことから、Legendre 変換は広い意味ではノルム空間上の函数をその共役空間上の函数へとうつすような変換であることが分かる。そしてこの定義より $f^*$ は凸かつ下半連続な函数となる。この対合について $f^{**} = (f^*)^*$ が考えられるが、この定義域を $E$ に制限することを考えた時、元の $f$ が凸かつ下半連続であるとした時、$f^{**} = f$ が成立する (Fenchel-Moreau)。

概ね話が解析力学のそれに近づいてきたところで、具体例としての解析力学に触れて終わりとする。

解析力学の素朴なシチュエーションでは $E$ は有限次元のノルム空間となるが、この場合 $E$ は反射的、即ち $E^* \simeq E$ であるので、$\R^n$ 上の函数が $(\R^n)^* \simeq \R^n$ 上の函数 $f^*$ へとうつるという構造になっている。質量 1 の自由な質点に対する Lagrangian は $L(q,\dot{q}) = \frac{1}{2} \dot{q}^2$ で表されるが、これは連続な凸函数である。ポテンシャルを含む場合必ずしも凸ではないので二重共役函数が元に戻るとは言えないであろうが、ともかくも Lagrangian $L(q,\dot{q})$ を $\R^n \times \R^n$ から $(\R^d)^* \times (\R^d)^* \simeq \R^n \times \R^n$ 上の函数へと Legendre 変換でうつしたものが共役函数 $H(q,p) = p \cdot \dot{q} - L(q,\dot{q})$ としての Hamiltonian であり($\max$ はどこへ・・・?)、これにより 2 階の微分方程式が 1 階の連立方程式系へとうつる、というストーリーになるようだ。

凸共役性 - Wikipediaによるとどうやら上記の一般化は Legendre-Fenchel transforms と呼ばれるようだ。