らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

正値行列への分解

$\mathrm{Mat}(n,\mathbb{C})$ の行列 $A$ について $\Re(A) := \frac{1}{2}(A+A^*),\ \Im(A) := \frac{1}{2i}(A-A^*)$ と置くと、これらはエルミート行列となる。
エルミート行列 $B$ の固有値は実数であるので、適当なユニタリ行列 $U$ 対角化によって、
\begin{equation}
B = U \begin{pmatrix}
\lambda_1 & 0 & 0 \\
0 & \ddots & 0 \\
0 & 0 & \lambda_n
\end{pmatrix}U^*,\quad {}^\forall \lambda_j \in \mathbb{R}
\end{equation}

となる。ここで
\begin{equation}
B^+ = U \begin{pmatrix}
\frac{|\lambda_1| + \lambda_1}{2} & & \\
& \ddots & \\
& & \frac{|\lambda_n| + \lambda_n}{2}
\end{pmatrix}U^*,\quad
B^- = U \begin{pmatrix}
\frac{|\lambda_1| - \lambda_1}{2} & & \\
& \ddots & \\
& & \frac{|\lambda_n| - \lambda_n}{2}
\end{pmatrix}U^*
\end{equation}

と置くとこれらは正値行列であり $B = B^+ - B^-$ が成立する。
よって、一般のエルミート行列 $A$ について $A = \Re(A) + i \Im(A)$ を更に正値行列に分解することで、4つの正値行列 $A_1,\ A_2,\ A_3,\ A_4$ を用いて $A = (A_1 - A_2) + i (A_3 - A_4)$ と表すことができる。 $A_1$ の固有値は0か或いは $\Re(A)$ の固有値の絶対値であることから $\| A_1 \| \leq \|\Re(A)\|$ であること、および $\| \Re(A)\| \leq \|A\|$ であることに注意しておく。

これを用いると一般の行列に関する性質について正値行列部分についての性質から導くことができる。
例えば $\mathrm{Mat}(n,\mathbb{C})$ 上の線型汎函数 $\varphi$ について $| \varphi(A) | \leq M $ が任意の作用素ノルムが1であるような正値行列に対して成立するとする時、任意の行列 $B$ に対して
\begin{equation}
|\varphi (B)| \ \leq |\varphi (\Re(B))| + |\varphi (\Im(B))| \leq |\varphi (B_1)| + |\varphi (B_2)| + |\varphi (B_3)| + |\varphi (B_4)| \leq 4 M \|B\|
\end{equation}

が得られる。このことから $\|\varphi\| \leq 4M $ が従う。つまり、線型汎函数について、正値行列からなる部分集合上での有界性から全体での有界性を導くことができるし、作用素ノルムの見積もりを行うことができる。

上記と同様の議論が単位的 $C^*$-環 $\mathcal{A}$ に対しても行うことができ、 $\mathcal{A}$ の状態、即ち $\varphi:\ \mathcal{A} \to \mathbb{C}$ なる正値線型汎函数であって $\varphi(1) = 1$ であるようなものについてその有界性を正値元上での挙動から導くことができる。また、Cauchy-Shwarzの不等式と併せて、その作用素ノルムは1であることが導かれ、 $\mathcal{A}$ の状態全体のなす集合はBanach–Alaogluの定理により$\mathcal{A}$ から誘導される汎弱位相においてコンパクトであることが示される。