らんだむな記憶

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圏論(21)と arrows-only metacategory

Mac Lane本で解説のある「射のみのメタ圏」(arrows-only metacategory)について触れる。
ここでメタ圏と読んでいるものはAwodey本の圏なので、メタはあってもなくても良い。Mac Lane本の注釈でも「メタ圏およびメタグラフという用語はあまり一般的ではない。通常は公理的に記述されるものも単に圏やグラフと呼ぶ。」とある。Mac Lane本では圏は ``メタ圏で定義した公理を集合論の言葉で記述したもの'' のことらしい。高尚すぎるので今後区別をしない。

Definition (arrows-only metacategory)

arrows-only metacategory $\mathbf{C}$ とは以下のデータからなる:

  • Arrows: $f,g,h, \cdots$
  • 合成可能対(composable pairs)と呼ばれる順序対 $\langle f,g \rangle$
  • 合成可能対 $\langle f,g \rangle$ に対して割り当てられる合成射 (composite) と呼ばれる作用 $g \circ f$

「$g \circ f$ が定義されている」 $\iff$ 「$\langle f,g \rangle$ が合成可能である」とする。

  • 恒等射(identity arrow) $u$ とは $f \circ u$ が定義されているときにはいつでも $f \circ u = f$ を満たし、かつ $u \circ g$ が定義されているときにはいつでも $u \circ g = g$ を満たすような arrow のことを言う。

これらのデータは以下の3つの公理を満たすことが求められる:

(i)composite $(k \circ g) \circ f$ が定義されているときには、composite $k \circ (g \circ f)$ が定義され、逆も言える。どちらかが定義されているとき、これらの arrows は同一である。この triple composite は $kgf$ と書かれる。
(ii)triple composite は $kgf$ は $k \circ g$ と $g \circ f$ が定義されているときには常に定義される。
(iii)$\mathbf{C}$ の各arrow $g$ について、$u^\prime \circ g$ と $g \circ u$ が定義されているような $\mathbf{C}$ の identity arrows $u, u^\prime$ が存在する。

―――――

「定義から(iii)で $u^\prime$ と $u$ が一意的であることが従い、各射 $g$ に codomain $u^\prime$ と domain $u$ が与えられる」と続く。これは、 $u^\prime,u$ が $\mathbf{C}$ の中でグローバルに一意というよりは、 $g$ に関して一意に定まるという内容である。なので、$u_g^\prime,u_g$ と書きたいところもある。とりあえず、記号的には、 $\mathrm{cod}(g) := u^\prime,\ \mathrm{dom}(g) := u$ が定義できるという内容になる。
少し確認しよう。arrow $g$ を任意にとる。 $g \circ u_1,\ g \circ u_2$ が共に定義されるような identity arrows $u_1, u_2$ がとれるとする。 $g \circ u_1 = g$ であるので、$g \circ u_2 = (g \circ u_1) \circ u_2$ が定義される。よって公理(i) より、$u_1 \circ u_2$ が定義され、 $(g \circ u_1) \circ u_2 = g \circ (u_1 \circ u_2)$ が従う。重要なのは、 $u_1 \circ u_2$ が定義されることである。すると identity arrows の定義により、 $u_1 \circ u_2 = u_1$ が従うと同時に $u_1 \circ u_2 = u_2$ が従う。よって、 $u_1 = u_2$ を得る。codomain についても同様の議論で $u^\prime$ の $g$ に関する一意性が従うので、晴れて問題なく $g$ の codomain と domain が arrow の概念のみで定義できることとなった。