らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

圏論(1)

圏論とかっ - らんだむな記憶で折角Steve Awodey先生のページで「Category Theory」の第1版っぽいレクチャーノートを見つけたので読んでみる。

定義1.1. で微妙な気持ちになる。悪い意味ではない。
少し訳してみよう。

定義 1.1. categoryは以下のデータからなる:

  • Objects: $A,B,C,\cdots$
  • Arrows: $f,g,h,\cdots$
  • 各arrow $f$に対して、objects:

$$\mathrm{dom}(f), \hspace{2em} \mathrm{cod}(f)$$

が与えられ、それぞれ $f$ のdomainとcodomainと呼ばれる。
\begin{equation}
f:A \to B
\end{equation}

と書くとき、$A = \mathrm{dom}(f)$ および $B = \mathrm{cod}(f)$ を示すものとする。

  • $f:A \to B$ と $g:B \to C$ が与えられた時、つまり:

$$\mathrm{cod}(f) = \mathrm{dom}(g)$$

が成立している時、あるarrow:
\begin{equation}
g \circ f:A \to C
\end{equation}

が存在する。これは $f$ と $g$ のcomposite(合成)と呼ばれる。

  • 各object $A$に対してあるarrowが存在して:

\begin{equation}
1_A:A \to A
\end{equation}

となる。これを$A$のidentity arrowと呼ぶ。

これらのデータは以下の法則を満たすことが求められる:

\begin{equation}
h \circ (g \circ f) = (h \circ g) \circ f
\end{equation}

がすべての $f:A \to B,\ g:B \to C,\ h:C \to D$に対して成立する。

  • 単位則:

\begin{equation}
f \circ 1_A = f = 1_B \circ f
\end{equation}

がすべての $f:A \to B$に対して成立する。

categoryとはこの定義を満たすものであれば何でも良い ―――


という内容だ。ここで、わざと未定義語のごとくobjectとかarrowとかdomainのままにしている。
「オブジェクト(対象)」とか「射」とか「定義域*1」とかするのはあまり良くないように思う。いかにも集合と写像のような気持になってしまい、感覚が縛られるからだ。
数学書の和訳はよく頑張って用語に和訳を割り当てるが、好きではない。distributionとhyper functionは共に「超函数」となっているが、大分違うものだ。やりたいことは似ているんだが、"人工的" な函数と自然な函数ということなるベースからのアプローチなのでやはり別名にして欲しかった。
自分のノートにおいては、いけてないと思う訳語やあえて和訳しないほうが良いと思う場合には、原著の単語のままで書いている。

―――――・・・

さて、こうして眺めると、どうもHilbertの幾何学基礎論を感じてしまう。
幾何学基礎論 (ちくま学芸文庫) | D. ヒルベルト, David Hilbert, 中村 幸四郎 | 本 | Amazon.co.jpは読みやすい和訳だが「点」とか「直線」と書いてくれていて、結構視覚的なイメージにとらわれてしまった。確かに視覚的なそれが根底にはあるのだが、それをベースにした形式的な未定義語だ。
原書はProject Gutenbergで公開されており、http://www.gutenberg.org/files/17384/17384-pdf.pdfとして読むことができる。こちらでは、pointsとstraight linesだ。まぁ、その後pointsとstraight linesで書きながら図も添えるので和訳版と似たようなものではあるのだが...。この本は中学生向けの初等幾何学の本というわけではなく論理主義, 直観主義, 形式主義のうち形式主義の奥義書だろう。
pointsとかstraight linesとかplanesと呼ばれる未定義語があって、2つのpointは1つのstraight lineを定めるとか、straight lines A, B, Cが1つのplane αを完全に決定する、そしてそのことをA, B, Cはαの上にある(lie in)などと呼ぶことにしている。
とにかく未定義語が幾つかあって、それらの関係を定める未定義な用語があって、それを使った公理系を組み立ててそれを前提として、幾何学を議論するというものだ。出てくる結果そのものは中高生で具体的な点と直線を使って出てくるものと同じものだろう。
Hilbertの本ではpointsとかstraight linesとかplanesは未定義なので「大根」3本が「八百屋」を完全に決定し、そのことを「大根」は「八百屋」の売り物であると呼ぶ、などとして議論してもDesarguesの定理の導出上は本質的には問題ない、ということだ。

勿論1つの批判はある。岩波基礎数学選書の小平先生による「刊行にあたって」なる序文がそれだ。ちょろっと引用しようにも1ページ丸ごとでないとあまり意味がないのでやめとこう。過ぎたるは猶及ばざるが如しの部分があることについて書いていると解釈している。
→ と思ったが、数学的な美 - らんだむな記憶でしっかり引用していた(汗) Hilbertのアプローチも小平先生の一言もどっちもそれなりに気に入っているので、どちらに賛成というわけにもいかない。

このように批判はあるが、

pointsとかstraight linesとかplanesとはこの公理を満たすものであれば何でも良い

ということになっていると思う。この点にcategoryの定義の類似性を感じる。

*1:codomain との兼ね合いからは「始域」のほうが良いか?