らんだむな記憶

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Galois理論(50)―方程式のガロア群と判別式

Galois理論(49)―ガロア群の計算例 - らんだむな記憶の例2を振り返る。
定義を1つ。

Def (方程式のガロア群)

$P \in K[X]$: 分離既約多項式とする。$M $: $P$ の分解体とする。この時、 $M/K$ はガロア拡大であり、
\begin{equation}
\mathrm{Gal}(P) \overset{\text{def}}{=} \mathrm{Gal}(M/K)
\end{equation}

を方程式 $P(X) = 0$ のガロア群と呼ぶ${}_\square$

$K$ を標数が0の体或は標数が2でも3でもない有限体の代数拡大体... とする時、 $P$ を $K[X]$ の3次の既約多項式とし、その分解体を $M $ とする。この時、先の例では $\mathrm{Gal}(P)$ は巡回群 $\Z/3\Z$ か $S_3$ かに分かれた。これを決めるのは何か?という疑問がある。
実はこれは $P$ の判別式による。

判別式の考察

$P \in K[X]$ を分離既約多項式とし、その $\bar{K}$ での根を $\alpha_1,\cdots,\alpha_n$ とする。 $P$ の splitting field を $M $ とする。
判別式 $\Delta := \prod_{i < j}(\alpha_i - \alpha_j)^2$ とおく。
$G = \mathrm{Gal}(P)$ とおく。 $G$ は $P$ の根を置換するので $G \subset S_n$ である。
置換は互換の有限個の積で表現できるが、互換 $(i\ j)$ によって、
\begin{align}
(\alpha_k - \alpha_i)^2 (\alpha_k - \alpha_j)^2 &\mapsto (\alpha_k - \alpha_j)^2 (\alpha_k - \alpha_i)^2 \\
(\alpha_i - \alpha_k)^2 (\alpha_k - \alpha_j)^2 &\mapsto (\alpha_j - \alpha_k)^2 (\alpha_k - \alpha_i)^2 \\
(\alpha_i - \alpha_k)^2 (\alpha_j - \alpha_k)^2 &\mapsto (\alpha_j - \alpha_k)^2 (\alpha_i - \alpha_k)^2
\end{align}

のように影響箇所を見ても互換の適用前後で判別式が変化しないので、置換によっても影響を受けない。
よって、 $\Delta \in M^{G} = K$ である。
次に、 $\sqrt{\Delta} = \prod_{i < j}(\alpha_i - \alpha_j)$ を考える。 $\sqrt{\Delta}$ は偶置換によってしか値が保持されない。

Def

$S_n$ の偶置換全体のなす部分群をn次交代群と呼び $A_n$ で表す。
$A_n \triangleleft S_n$ であって $S_n/A_n \simeq \{\pm 1\}$ である${}_\square$

Prop

$G \subset A_n$ $\iff$ $\sqrt{\Delta} \in K$

proof

($\Rightarrow$) $\sqrt{\Delta} \in M^G = K$
($\Leftarrow$) $G$ の任意の元は $\sqrt{\Delta}$ を固定するので、 $G$ の元は偶置換である${}_\blacksquare$


さて、冒頭の3次の既約多項式の話に戻る。
\begin{align}
X^3+aX^2+bX+c &= \left(X+\frac{a}{3}\right)^3-\frac{a^2}{3}X+bX+c-\frac{a^3}{27} \\
&= \left(X+\frac{a}{3}\right)^3 + \left(b-\frac{a^2}{3}\right)\left(X+\frac{a}{3}\right)+\left(-\frac{ab}{3}+c+\frac{2a^3}{27}\right)
\end{align}

と変形することで、3次の既約多項式 $P \in K[X]$ は $P(X) = X^3 + pX + q$ だと仮定することができる。この判別式は $\Delta = -4p^3 -27q^2$ である*1
$\mathrm{Gal}(P) \subset S_n$ であったが、

●$\sqrt{\Delta} \in K$ の時 ($\iff$ ケース1― $P$ が $L$ で分解する)
上記Propより、 $\mathrm{Gal}(P) \subset A_3$ であるが、 $\#\mathrm{Gal}(P) \geq 3$ かつ $\#A_3 = 3$ であるので、 $\mathrm{Gal}(P) \simeq A_3$ となる。 $A_3$ は巡回置換 $(1\ 2\ 3)$ を生成元とする巡回群である。

●$\sqrt{\Delta} \not\in K$ の時 ($\iff$ ケース2― $P$ が $L$ で分解しない)
$\mathrm{Gal}(P) \not\subset A_3$ であるので、 $\mathrm{Gal}(P) = S_3$ となる。


この時、 $K \subset M $ の部分体はどうなっているだろうか? 中間体 $F$ とガロア群 $\mathrm{Gal}(M/F)$ が対応するというのがガロアの基本定理であったことを思い出す。

●ケース1
$\{1\} \subset A_3$ の間に真の部分群があるか?という問いとしても解釈できるが、 $\#A_3 = 3$ であり、3は素数なのでラグランジュの定理より真の部分群はない。よって $K \subset M $ の間の真の部分体もない。

●ケース2
$\{1\} \subset S_3$ の間に真の部分群があるか?という問いとしても解釈できる。ラグランジュの定理より位数2の部分群か或は位数3の部分群が考えられる。

○位数2の部分群
これについて、互換 $(1\ 2)$, $(2\ 3)$, $(3\ 1)$ がそれぞれ生成する位数2の部分群が3つある。
$(1\ 2)$ で影響を受けない部分体は、 $\alpha_1$ と $\alpha_2$ の入れ替えで任意の元が影響を受けない $K(\alpha_3)$ である。同様に、

  • $(1\ 2)$ $\iff$ $K(\alpha_3)$
  • $(2\ 3)$ $\iff$ $K(\alpha_1)$
  • $(3\ 1)$ $\iff$ $K(\alpha_2)$

が部分体として対応する。
また、 $K(\alpha_j)/K$ はガロア拡大ではなかったので、ガロアの基本定理により、対応する互換のなす部分群も $S_3$ の正規部分群ではない。

○位数3の部分群
$A_3 \subset S_3$ に対応する部分体が考えられる。これは、 $K(\sqrt{\Delta})$ が該当する。

ガロア対応によりこのケース2において他の部分体がないことが分かる。($S_3$ の他の部分群は存在しないから)

*1:「代数概論」p.228なども参考になる。