らんだむな記憶

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飽きたらやめようGalois理論(5)―Gaussの補題で遊ぶ

Gaussの補題

$P \in \Z[X]$ をとる。
この時、$P$ は $\Z[X]$ で既約 $\Rightarrow$ $P$ は $\Q[X]$ でも既約

証明

対偶をとって、$P$ は $\Q[X]$ で可約 $\Rightarrow$ $P$ は $\Z[X]$ で可約を示す。
$P = Q R,\ Q,R \in \Q[X]$ とする。$Q$ の係数の分母の最小公倍数を $m $、$R$ の係数の分母の最小公倍数を $n$ とすると、$Q_1 := mQ \in \Z[X],\ R_1 := nR \in \Z[X]$ となる。この時、 $mn P = Q_1 R_1 \in \Z[X]$ である。
素数 $p | mn$ をとり、$\mathbb{F}_p[X]$ の等式に翻訳すると、
\begin{equation}
0 = \bar{Q}_1 \bar{R}_1
\end{equation}

であるが、 $\mathbb{F}_p$ は体、従って特に整域なので $\mathbb{F}_p[X]$ も整域となり、$\bar{Q}_1 = 0 \in \mathbb{F}_p[X]$ 或は $\bar{R}_1 = 0 \in \mathbb{F}_p[X]$ となる。
これは $Q,R$ の少なくともいずれかの係数はすべて $p$ で割り切れることを意味する。
仮に $\bar{Q}_1 = 0 \in \mathbb{F}_p[X]$ とすると、$Q_2 := \frac{1}{p} Q \in \Z[X]$ であり、 $\frac{mn}{p}P = Q_2 R_1 \in \Z[X]$ となる。
$mn$ の素因数に対し帰納的に同様の議論を行うことで $P = Q_s R_t,\ Q_s,R_t \in \Z[X]$ を得る。${}_\blacksquare$


これを使って遊んでみる。
$X^3 + X + 1 \in \Z[X]$ は既約である。可約とすると $(X + a) (X^2 + bX + c)$ と分解できるが、$ac = 1$ となるので、 $a = \pm 1$ である。 $1^3+1+1 \neq 1,\ (-1)^3 + (-1) + 1 \neq 1$ よりこれは不可能である。よって、Gaussの補題より、 $X^3 + X + 1 \in \Q[X]$ は既約である。
$\alpha^3 + \alpha + 1 = 0,\ \alpha \in \C$ をとると、$\Q[\alpha]$ は体となる。ここで $\Q[\alpha] = \mathrm{span}\{1,\alpha,\alpha^2\}$ である。
ということは、$(a \alpha^2 + b \alpha + c)^{-1} \in \Q[\alpha]$ となるということだが本当だろうか?試しに、 $(2\alpha^2 + \alpha + 1)^{-1}$ を考えてみよう。
$0 = \alpha^3 + \alpha + 1 = (2\alpha^2 + \alpha + 1)(\frac{1}{2}\alpha + \frac{1}{4}) + \frac{1}{4}\alpha + \frac{5}{4}$ と書ける。よって、
\begin{equation}
\frac{1}{2\alpha^2 + \alpha + 1} = \frac{(-1/2)\alpha + 1/4}{(3/4)\alpha + 5/4} = \frac{4}{3} \frac{(-1/2)\alpha + 1/4}{\alpha + 5/3}
\end{equation}

と書ける。よって、 $(\alpha + 5/3)^{-1} \in \Q[X]$ が示せれば良い。
さて、 $\alpha^3 + \alpha + 1 = 0$ に戻ると、任意の $q \in \Q$ に対して、 $0 = \alpha^3 + \alpha + 1 = (\alpha + q)^3 - 3q (\alpha + q)^2 + (3q^2 + 1)(\alpha + q) - q^3 - q + 1$ と書ける。よって、
\begin{equation}
\frac{1}{\alpha + q} = \frac{1}{q^3 + q - 1}\Big((\alpha + q)^2 - 3q (\alpha + q) + 3q^2 + 1\Big) \in \Z[X]
\end{equation}

よって、 $q = 5/3$ とおくと、 $(\alpha + 5/3)^{-1} \in \Q[X]$ であることが分かる。従って、 $(2\alpha^2 + \alpha + 1)^{-1} \in \Q[X]$ である。細かく計算すると $\frac{3}{10}\alpha^2 - \frac{2}{5}\alpha + \frac{1}{2}$ になる、はず。
他の $(a \alpha^2 + b \alpha + c)^{-1}$ についても同様に議論すれば良い。
以上から $0 \neq x \in \Q[\alpha]$ が(意外な気持ちになるが) $x^{-1} \in \Q[\alpha]$ を持つことが分かったので、 $\Q[\alpha]$ が体になっていることが分かる。意外だが。


計算してみると確かにそうだなと思えるのだが、どうしても直観的には $\Q[\alpha]$ が体になるようには思えず、計算や抽象理論では示せるものの「あ、なるほど!」というほど簡明な理由で体であることが示せるように思えない。こういう「目で見えない」感が好きになれない。
というか、一歩退いて考えると、以上の議論は $\Q[\alpha]$ が体であることを示すあまりに簡明な理由であるのは明らかなのだが、それが簡明であると思えないところに自身の代数学への適性のなさを感じざるを得ない。