らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

圏論(19)

圏論(10) - らんだむな記憶圏論(11) - らんだむな記憶で ``bijective homomorphism'' が存在するが同型ではないこともあるという話に触れた。
$\mathbf{Pos}$ の例は少し分かりにくくて、p.38 で登場する $\mathbf{Top}$ を例にとったほうが分かりやすい、と思う。――― $\mathbf{Top}$ とは、空間と連続函数からなる category である。

代数概論 (数学選書) | 森田 康夫 | 本 | Amazon.co.jp (森田本とでも呼ぼう) に良い記述がある。

――― 位相空間の圏では、連続な1対1の写像単射であり、連続な上への写像全射である。従って、連続な1対1かつ上への写像全単射であるが、この場合、逆写像の連続性は分からない。よって全単射でも同型となるとは限らない。 ―――

とても短い解説だが、まさにその通りだなと思う。開写像であれば逆写像が連続になるが、一般に任意の連続写像が開写像とは言えないので逆写像については何も言えない。$C^\infty$-多様体の category で考えたほうが反例は簡単かもしれない。この場合、arrows は $C^\infty$-写像になるが、$M = \R^1$ と $N = \R^1$ を考えた時、$\varphi: M \to N, \hspace{1em} x \mapsto x^3$は全単射な $C^\infty$-写像であるが、逆写像は原点で微分できないので全単射だが同型とはならないことになる。

他にも、大して面白くないと思って飛ばしたものに $\mathbf{Sets}$ ――― 集合とその間の写像からなる category ――― についても興味深い例が載っている。

集合の全体を $\mathrm{Ob}(\mathbf{C})$ とし、集合としての写像を射とする圏を $\mathbf{C}$ とする。このとき、もし $\mathrm{Ob}(\mathbf{C})$ が集合なら、
\begin{equation}
X = \{ x \in \mathrm{Ob}(\mathbf{C}) \,|\, x \not\in x \}
\end{equation}

を考えると、
\begin{equation}
x \in X \iff x \not\in x
\end{equation}

が成り立つ。よって、 $X \in X$ でも $X \not\in X$ でも、
\begin{equation}
X \in X \quad\text{かつ}\quad X \not\in X
\end{equation}

が成り立ち、矛盾である。よって、 $\mathrm{Ob}(\mathbf{C})$ は集合ではなく、 $\mathbf{C}$ は小さい圏ではない。

――― 素朴な集合論 - らんだむな記憶 でも触れた有名な Russell's paradox であるが、これをして $\mathbf{Sets}$ は小さい圏 (small category) ではないというのだ。Russell's paradox を避けるために片や公理論的集合論で、そういったものを集合の範疇から外す道もあれば、集合よりも更に広く圏の中で $\mathbf{Sets}$ の object という居場所を与えてあげる道もあるのだということに驚く。というか、 $\mathbf{Sets}$ ってそんなに奥が深い category だったのかと思った。森田本での圏論のページは僅か11ページだが、この短い解説の中に随分と濃いネタが詰まっているようだ。逆にこの本だけだと簡潔すぎてよく分からないこともある。