らんだむな記憶

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Galois理論(57)―円分多項式の既約性と円分拡大

Theorem

円分多項式 $\phi_n$ は $\Q[X]$ で既約である。

proof

$\mu_n$ の生成元 $\zeta$ をとる。 $(p,n)=1$ なる素数 $p$ をとると、 $\zeta^p$ も原始根である。
$\phi_n = P_\min(\zeta,\Q)\cdot g,\ g \in \Z[X]$ と書ける。 $P = P_\min(\zeta,\Q)$ とおく。
$0 = \phi_n(\zeta^p) = P(\zeta^p) g(\zeta^p)$ より $P(\zeta^p) = 0$ 或は $g(\zeta^p) = 0$ である。
$P \neq P_\min(\zeta^p,\Q)$ とすると $g(\zeta^p) = 0$ である。 $g_p(X) := g(X^p)$ とおくと、 $g_p(\zeta) = 0$ であるので、 $P | g_p$ であり $g_p(X) = P(X) h(X),\ h \in \Z[X]$ と書ける。
ところで $\Z \to \mathbb{F}_p$ の自然な射影を考えると、Fermat の小定理により $a \in \Z$ は $a^p = a \mod p$ であるので、 $\mathbb{F}_p[X]$ では $\bar{g}(X^p) = \{\bar{g}(X)\}^p$ となる。よって、 $\bar{g}^p(X) = \bar{P}(X) \bar{h}(X) \in \mathbb{F}_p[X]$ となる。このことから、 $\bar{P}$ と $\bar{g}$ は共通根を持つことが分かる。しかし、 $\bar{P} \bar{g} = \bar{\phi}_n$ は $\mathbb{F}_p[X]$ として重根を持たないので矛盾である。よって、 $P = P_\min(\zeta^p,\Q)$ つまり、 $P(\zeta^p) = 0$ が分かった。
これを用いて、 $(a,n)=1$ なる任意の $a \in \Z$ に対して $P(\zeta^a) = 0$ を見る。 $a=p_1\cdots p_t$ を素因数分解とする。 $P(\zeta) = 0$ $\Rightarrow$ $P(\zeta^{p_1}) = 0$ $\Rightarrow$ $P(\zeta^{p_1 p_2}) = 0$ $\Rightarrow$ $\cdots$ $\Rightarrow$ $P(\zeta^{p_1 \cdots p_t}) = P(\zeta^a) = 0$ である。 よって $P$ はすべての原始根 $\zeta^a$ を根に持つので、 $\phi_n | P$ であるが、そもそも $P | \phi_n$ であったので共に monic であることを考慮して $\phi_n = P = P_\min(\zeta,\Q)$ である。よって $\phi_n$ は既約であることが分かった${}_\blacksquare$

Remark

$\phi_n$ は $\mathbb{F}_p[X]$ では常には既約ではない。
例えば、 $\phi_8(X) = X^4+1 = (X+1)^4 \in \mathbb{F}_2[X]$
$p \geq 3$ の時は、 $8|(p^2-1)$ であり、 $\mathbb{F}_{p^2}^\times$ は位数8の部分群を持つ。よって、1の8乗根をすべて含む。このことから、 $\phi_8(X) = \prod_{\alpha \in \mu_8^*}(X-\alpha)$ は $\mathbb{F}_{p^2}[X]$ で分解する。飽きたらやめようGalois理論(11)―有限体続き - らんだむな記憶を思い出すと、もし $\phi_8(X) = X^4+1 \in \mathbb{F}_p[X]$ が既約だとすると、 $\mathbb{F}_{p^4}[X]$ で分解するはずなので、それより小さいところで分解するということは既約ではないということである。

以下は「体とガロア理論」§3.4 定理3.18が対応する。円分拡大についての性質である。

Theorem

$P_n \in K[X]$ の分解体は $L = K(\zeta)$ である。ここで、 $\zeta$ は $P_n$ のある根である。
$\forall\,g \in \mathrm{Gal}(L/K)$ は $\zeta \mapsto \zeta^{a_g},\ (a_g,n) = 1$ というように、 $P_n$ の根を $P_n$ の根(1のn乗根)にうつすが、
\begin{align}
\mathrm{Gal}(L/K) &\hookrightarrow (\Z/n\Z)^\times \\
g &\mapsto a_g
\end{align}

のような埋め込みを誘導する($\Z/n\Z$ の部分群と同型)。 $\phi_n$ が既約である時(例えば $K = \Q$ の時)にはこの写像は $K$-同型写像になる。

proof

(1) $\mu_n$ の生成元 $\zeta$ をとると、 $P_n$ の根は $\zeta^a,\ a \in \Z$ の形で書ける。よって、 $L = K(\zeta)$ は $P_n$ の分解体である。よって、 $L/K$ は正規拡大である。
また、 $P_n$ は重根を持たないので、 $L/K$ は分離拡大でありよってガロア拡大である。
(2) 任意の $g \in \mathrm{Gal}(L/K)$ をとると、これは体上の準同型写像であるので単射である。また $g: \mu_n \to \mu_n$ が分かるので、 $g(\zeta^i),\ 0 \le i \le n - 1$ はすべて異なる $\mu_n$ の元を表しよって全射である。 $g(\zeta) = \zeta^a$ とすると、 $(a,n) \neq 1$ なら全射にはならないので、 $(a,n) = 1$ である。
(3) よって、 $g \mapsto a$ を考えると $\mathrm{Gal}(L/K) \hookrightarrow \mathrm{Aut}(\mu_n) \simeq (\Z/n\Z)^\times$ である。
(4) $\phi_n$ が既約である時、 $P_\min(\zeta,K) = \phi_n$ であり、 $[L:K] = \deg(\phi_n) = \varphi(n)$ となる。 $n$ と互いに素である数の個数は $\#( (\Z/n\Z)^\times)$ であるので $\varphi(n) = \#((\Z/n\Z)^\times)$ である。ところで、Galois理論(41)―ガロア拡大 - らんだむな記憶より $\#(\mathrm{Gal}(L/K) ) = [L:K]$ であるので、 $\mathrm{Gal}(L/K) \simeq \mathrm{Aut}(\mu_n) \simeq (\Z/n\Z)^\times$ となる${}_\blacksquare$