らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

熱方程式の数値解析(5)

一旦まとめのつもり。

熱方程式を理論の側面から眺める。空間の次元を$d \ge 1$として、考えている領域を全空間(1次元の場合では無限に長い棒)とする。
全空間の理論としては、熱方程式を形式的にFourier変換することで得られる
\begin{equation}
G_t(x) = \frac{1}{(4\pi t)^{d/2}} \exp\left(- \frac{|x|^2}{4 t}\right),\quad t > 0
\end{equation}

という形の基本解(物理の領域ではGreen函数と呼んでいるだろう。多分)が大事な役割を果たす。こいつの場合は特に熱核とかGauss核とかの名称が与えられており、幅広く登場する人気者である。
基本解を用いると、熱方程式の解は基本解と初期値との畳み込み積(convolution)を用いて
\begin{equation}
u(t) = (G_t * u_0)(x) = \frac{1}{(4\pi t)^{d/2}} \int_{\mathbb{R}^d} \exp\left(- \frac{|x - y|^2}{4 t}\right) u_0(y) dy,\quad t > 0 \hspace{3em} (1)
\end{equation}

と表される。
$u_0$としては、$1 \le p < \infty$に対して、$u_0 \in L^p(\mathbb{R}^d)$で右辺の積分は意味を持つ。

積分核たる熱核は急減少函数であり、何回微分しても急減少性を持つ。この性質から、$u$は何回微分してすべて熱核の急減少性に吸い取られ、右辺の積分が意味を持つ。これにより、$u$は$t > 0$で滑らかな函数となる。初期値が尖っていても少し時間が経過すると解が滑らかになるこの性質を平滑化効果と言う。熱方程式の数値解析(4) - らんだむな記憶の最初の例では尖った初期値に対して時間発展の解は滑らかになっているように見えるが、数値解析の誤差としてそうなっている部分もあろうだろうが、理論上も滑らかになる。
平滑化効果は熱方程式のような放物型方程式の性質であるが、広義の放物型であるSchrödinger方程式の場合もある種の平滑化効果を持つらしいことが興味深い。非線型Schrödinger方程式の本でよく取り上げられている印象だが、そこまで手が回らないので詳細は分かっていない...。

一方数値解析の誤差によって紛らわしい結果になっている部分もある。(1)式の厳密解の式を見ると分かるが、初期値$u_0$が局在しており台がコンパクトであったとしても、全空間を積分することから、いかなる$x \in \mathbb{R}^d$に対しても、一般に$t > 0$で$u(t,x) \ne 0$である。つまり、台のコンパクト性は保持されない。物理的には奇妙に感じるが、熱方程式の解としては、一瞬で無限遠まで熱が伝達することになる。
再び数値解析の結果を見ると、台のコンパクト性を保持してじわりじわりと熱が拡散しているように見える。つまり、解の有限伝播性があるかのように見えるが、こちらは少なくとも今回用いた手法での数値解析の限界である。
解の有限伝播性については双曲型の特徴であり、波動方程式や相対論的波動方程式であるDirac方程式に見られる。初期値に対して、解の台は波動の速度での広がりで抑えられる。仮にDirac方程式の光速部分を "無限大" となるような細工をすると、Dirac方程式が破綻してしまうのが面白い。

まぁ...所詮この程度で、ともかく勉強不足でちっとも面白いことができないな、ということだ...。