らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

公理論的集合論もどき

素朴な集合論 - らんだむな記憶で遠くから眺めたふりをした項理論的集合論。今度は表面を少し撫でて逃げたい。
参考にするのは以下。

Kelley本では Appendix が相当する。が割と長いのでパス。田中本をベースにかつ凄く適当に書く。大体どの数学基礎論の本や公理論的集合論の本も論理記号で定義している気がするけど、どうしても含意の在り方にもやもやするし、そもそも読みにくいのでもっと大雑把なメモにしたい。*2

定義もどき?

集合とは以下のような公理を満たす存在である:
(I)外延公理
集合 $x$ と $y$ が同じ要素からなるのであれば $x = y$
(II)対公理
集合 $x$ と $y$ が与えられた時、 $\{ x,y \}$ も集合である。*3
(III)和集合公理
集合の集合 $x$ が与えられた時、 和集合 $\bigcup_{y \in x} y$ も集合である。
(IV)冪集合公理
集合 $x$ が与えられた時、 $x$ の部分集合全体からなる集合*4 $\mathcal{P}(x)$ が存在する。
(V)空集合公理
要素を含まない集合*5 $\varnothing$ が存在する。
(VI)無限集合公理
ある集合 $x$ が存在して、

  • $\varnothing \in x$ であって
  • 集合 $y$ が $y \in x$ であるならば、 $y \cup \{y\},\ y \cup \{y\} \cup \{ y \cup \{y\} \},\ y \cup \{y\} \cup \{ y \cup \{y\} \} \cup \{ y \cup \{y\} \cup \{ y \cup \{y\} \} \},\ \cdots$ はすべて集合で、この無限集合列はすべて $x$ に含まれる

という性質を満たす。*6
(VII')分離公理スキーマ
集合 $u$ が与えられ、論理式 $\varphi$ が与えられた時、$\{ x \in u \,|\, \varphi(x) \}$ という形の集合が存在する。
(VIII')正則性公理
集合の $\in$ -無限下降列 $a_0 \ni a_1 \ni a_2 \ni \cdots$ は存在しない。

+

(IX)選択公理
集合の集合 $x = \{ x_\lambda \}_{\lambda \in \Lambda}$ が与えられ、その要素 $x_\lambda$ がすべて空集合ではなく、かつ $x_\lambda \cap x_\mu = \varnothing\ (\lambda \ne \mu)$ の時、選択函数
\begin{equation}
f : x \to \bigcup x, \hspace{1em} x_\lambda \mapsto f(x_\lambda) \in x_\lambda
\end{equation}

が存在する。*7 また、 $\{ f(x_\lambda) \}_{\lambda \in \Lambda}$ は集合であって、選択集合と呼ばれる。

―――――

と書いて見渡すと、記号論理学の出発の仕方と同様に、選択公理を除いて、構成的に再帰的に集合が定義されている様子が見える。
素朴な集合論 - らんだむな記憶で触れた Russell's paradox で出てくる ``クラス'' $\{x \,|\, x \not\in x\}$ は「分離公理スキーマ」にいうような、先に与えられた集合 $u$ で制限をかけられていないフリーダムな存在であって、公理論的集合論の意味での集合の範囲外の存在(クラス)になっているというカラクリが用意されているようだ。
(I)~(VIII')までを公理をするものが Zermelo の公理系であって、「分離公理スキーマ」をそれを導けるより強い公理「置換公理スキーマ」に置き換えたものが Zermelo-Fraenkel の公理系、更に超越的な神力の選択公理(IX)を加えたものが ZFC 公理系となるようだ。一般には、ZFC 公理系をベースに数学をしているらしい。意識したことはないが。
Zornの補題 - らんだむな記憶で触れたように「選択公理」だけは、構成的かつ帰納的な定義の範囲外の超越的な力に見える。

この世界観では $\{x \,|\, x \not\in x\}$ のような厄介な存在は「クラス」という名前で集合の世界からは追い出されている。
von Neumann–Bernays–Gödel集合論 (NBG) という別の公理系もあるようで、ZFC 公理系の拡張のような存在のようだ。天才すぎる von Neumann は22歳の頃には集合論の公理化について取り組んでいたようで、NBG 公理系では集合のみならずクラスのうち真クラス(proper class)までも公理の中に取り込んでいるようだ。Von Neumann–Bernays–Gödel set theory - Wikipedia, the free encyclopediaに色々書いてあるがちょっともう気力がないので引用だけする:

The ontology of NBG includes proper classes, objects having members but that cannot be members of other entities.

Mac Lane本では圏をメタ圏と区別して「圏とは圏の公理の集合論への任意の翻訳を意味することになる。」とし、ユニバースを導入して集合をユニバースに含まれる「小さい集合」に制限することで集合演算で閉じた世界で議論をできるようにしている。このユニバース(Grothendieck universe)の存在については、ZFC 公理系からしゅるっと出てくるものではなく、Grothendieck universe - Wikipedia, the free encyclopedia

most set theories that use large cardinals (such as "ZFC plus there is a measurable cardinal", "ZFC plus there are infinitely many Woodin cardinals") will prove that Grothendieck universes exist.

とあるようにオマケの仮定を置くことでユニバースの存在を保証している。Mac Lane本ではそういう仮定をしたことにするよということをさらっと書いているようだ。
NBG 公理系についても「6 基礎論」中で「ゲーデル-ベルナイス公理系」という名を持ち出して少し触ってすっと離れている。これ以上タッチすると公理論的集合論の説明をしているのか(集合論に適合させた)圏論の説明をしているのか分からなくなるからだろう。Awodey本は非数学系を念頭においているので、このような気が触れた話題は用語を含め一切出てこないように思う。
Mac Lane本にしても「普通の数学をやる枠組み(ZFC公理系)に少し毛を生やして安全な世界(ユニバース)を創り出して、その中に制限して圏論の話をしているよ!」などと心の隅の奥に留めて、後は細かいことは忘れて先に進むのが良いだろう。

なお、Mac Lane本のユニバースの解説のところでひょこっと出てくる順序対(ordered pair) $\langle x,y \rangle$ であるが、田中本とKelley本を見る限り、$\langle x,y \rangle = \{ \{x\}, \{ x,y \} \}$ が正確な定義のようだ。集合の集合だな。... と思ったのだが、Ordered pair - Wikipedia, the free encyclopediaによると色んな考えがあるようだ。上記のものは Kuratowski definition になるのか。単に順番を考えた対というものでも良いようだ。Kuratowski definition には「the now-accepted definition」という解説が続いているが、Mac Lane本のそれがこれなのかはよく分からない。まぁ、あまり深く考えなくても支障はなさそうだが。

*1:Reed-Simon 1巻第IV章末問題44に曰く「Do any fifty problems in Kelley's book.」なのでKelley本で良いのだ。

*2:というか、説明部分に書いてあることとほぼ同様だが...。

*3:$\{ x,y \}$ は2つの集合を要素に持つ集合の集合である。

*4:冪集合; Power set

*5:空集合

*6:勿論、$y = \varnothing$ としても良い。

*7:要するに、各 $x_\lambda$ から1要素ずつピックアップできるということ。豆が入った袋が無限にあるとして、一気に各袋から豆を1個ずつピックアップして見渡せる感じ。