らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

よい論文

Amazon.co.jp: 量子力学のスペクトル理論 (共立講座 21世紀の数学 26): 中村 周: 本の、p.144においても【読みやすく、とても美しい論文で、「よい論文」とはどのようなものかを知るためにもいいと思う】と紹介されている加藤先生の論文: EUDML  |  Wave Operators and Similarity for Some Non-selfadjoint Operators.

T-smoothとかH-smoothとか文献によって表現は違うけど、そういう概念の原論文(TとかHは議論における非摂動の作用素のことなので、正直なんでも良い)。
さらっと眺めると確かに丁寧なIntroductionでとっつきやすい感じ。
少し読み進めると、Definition 1.2 で T-smooth の定義が出てくるが、その説明の中で閉グラフ定理や一様有界性原理が登場してなんとも言えない気分。軽くストレッチをしながら準備をできる心地だ。
$L_\varepsilon$はclosable(可閉 or 前閉)なので有界、という説明の中に、$L_\varepsilon$は全空間で定義された可閉作用素なので、故に閉作用素であり、従って閉グラフ定理により有界作用素であるという内容が入っていて、肩慣らしに丁度良い。
例えば、対称作用素は可閉なので、全空間で定義された対称作用素有界な自己共役作用素である、などなどちょっとした系を述べることもできる。
なかなか参考になる感じである。

―――――・・・

なお、冒頭の書籍はAmazonのレビューでは不当な評価を受けているように思う。あまりページ数が多くない中に大分話題を突っ込んだので、個々は深いところまで及んでいないかもしれないが、磁場ありのケースの紹介や準古典解析に触れているのは面白いかもしれない。敢えて書くと第5章までは同じシリーズのヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版 (共立講座 21世紀の数学 16) | 新井 朝雄, 木村 俊房, 飯高 茂, 西川 青季, 岡本 和夫, 楠岡 成雄 | 本 | Amazon.co.jpと被っていることと、この「ヒルベルト空間と量子力学」は大分デキの良い本であることから、2冊も重複して説明しなくてもいいかなぁと思うところはないでもない。続刊みたいな位置づけで、第6章以降の散乱理論, 磁場ありハミルトニアン, 準古典解析の話を倍に膨らませて説明してくれても良いかもという気持ちはある。準古典解析の話題で唐突に擬微分作用素が登場して、しかも少しするとしゅるっと終わってしまうので、あまり楽しめないかもなぁとも。(そして準古典解析に興味を持ってもこの先はたぶん今はまだ洋書しかない... 同日刊行という偶然だが、Semiclassical Analysis (Graduate Studies in Mathematics): Maciej Zworski: 9780821883204: Amazon.com: Booksもreferenceに欲しかった。後年になるがSemi-Classical Analysis: Victor Guillemin, Shlomo Sternberg: 9781571462763: Amazon.com: Booksも。この2冊はdraft段階でpdfが公開されていた記憶がある)