らんだむな記憶

blogというものを体験してみようか!的なー

開写像定理云々(2)

メモを残そうと思って半分だけ書いてから数日過ぎた...。

再び$\mathfrak{X},\ \mathfrak{Y}$をBanach空間とする。$T \in \mathscr{L}(\mathfrak{X},\ \mathfrak{Y})$とし$\mathfrak{Y}_0 := R(T)$とおく。
$\mathfrak{Y}_0 \subset \mathfrak{Y}$が閉空間である時、$\mathfrak{Y}_0$は$\mathfrak{Y}$のノルムで再びBanach空間になることに注意する。

次に、$T$が単射である場合を考える。この時、代数的に$T^{-1}:\ \mathfrak{Y}_0 \to \mathfrak{X}$なる線型写像を考えることができる。
さて、以下を見たい。

命題

$T \in \mathscr{L}(\mathfrak{X},\ \mathfrak{Y})$が単射であるとする。この時、以下が成立する。
$\mathfrak{Y}_0$が閉 $\Leftrightarrow T^{-1} \in \mathscr{L}(\mathfrak{Y}_0,\ \mathfrak{X})$

証明

$(\Rightarrow)$ $\mathfrak{Y}_0$をBanach空間と見ることで、逆写像定理から従う。
$(\Leftarrow)$ $v = Tu,\ u \in \mathfrak{X}$に対し、$T^{-1}$の連続性より以下の評価が成立する。
\begin{equation}
\|T^{-1}v\| \le C\|v\|
\end{equation}
これを変形すると、$u \in \mathfrak{X}$に対して、
\begin{equation}
\|u\| \le C\|Tu\|
\end{equation}
となる。$\{v_n\} \subset \mathfrak{Y}_0$をCauchy列とし、$u_n := T^{-1} v_n$とおくと、
\begin{equation}
\|u_n\| \le C\|Tu_n\| = \|v_n\| \to 0 \ \ \mathrm{as}\ \ n \to \infty
\end{equation}
より、$\{u_n\} \subset \mathfrak{X}$もCauchy列であることが分かる。$\mathfrak{X}$の完備性より、$u_n \to \exists 1\, u_\infty \in \mathfrak{X}$となる。
$T$の連続性により、$v_n = T u_n \to T u_\infty \in \mathfrak{Y}_0$なので、$\{v_n\}$は$\mathfrak{Y}_0$に極限を持つので閉である。${}_\square$

ということで、$T,\ T^{-1}$が共に連続なら、Banach空間が像空間にすっぽりとBanach空間としてうつっていくことが分かった。
ところで、途中で出てきて式について、0写像なるコンパクト作用素を考慮することで、
\begin{equation}
\|u\| \le C\|Tu\| = C\|Tu\| + C\|0 u\|
\end{equation}
としてみると、以下のFredholm的な定理となんとなく通じるものを感じる。

定理

$\mathfrak{X},\ \mathfrak{Y}$をBanach空間とする。$T :\ \mathfrak{X} \to \mathfrak{Y}$を閉作用素とする。また、$K :\ \mathfrak{X} \to \mathfrak{Y}$をコンパクト作用素とする。
この時、
\begin{equation}
\|u\| \le C\|Tu\| + C\|Ku\|,\ u \in \mathcal{D}(T)
\end{equation}
が成立すれば、$R(T)$は閉である。${}_\square$

これはPseudodifferential Operators (PMS-34) (Princeton Mathematical Series): Michael Eugene Taylor: 9780691082820: Amazon.com: BooksのChapter V Proposition 3.1 である。Fredholm作用素の標準理論に属する定理だそうだ。この本は古い本だが良い本だと思うので絶版なのが残念だ。
C*-Algebras and Operator Theory: Gerard J. Murphy: 9780125113601: Amazon.com: BooksのTheorem 1.4.16 Atkinsonの定理などによれば、Fredholm作用素はCalkin代数(= 有界作用素/コンパクト作用素)の中で可逆な作用素といった感じだと思う。コンパクト作用素有界作用素に対する小さな摂動と考えると、Fredholm作用素はほぼ可逆な作用素と考えてもいいかもしれない。ほぼ可逆な作用素と、値域の閉という性質。

こんなものたちをつらつら眺めると、「ほぼ可逆な作用素で結び付けられた2つの空間」と「空間の閉という性質の保持」がやんわりと同等だと言っているのかなぁと思ったりもする。

ちょっと、Fredholm作用素が楽しくなってくるのだが、残念ながらこいつの使い所がよく分からない...。いまのとこ指数理論にあまり興味を持っていないので馴染みも薄い。
Pseudodifferential Operators and Spectral Theory (Springer Series in Soviet Mathematics): M.A. Shubin, S.I. Andersson: 9783540411956: Amazon.com: BooksのChapter I Problem 8.6では、ヒルベルト空間たちのフレドホルム複体というのが扱われていて、これが何なのかさっぱり知らないが、なんだかホモロジー代数っぽい世界観の中でフレドホルム性が絡んでくるのが面白いなぁと思った。ホッジ-ラプラシアンなる作用素もでてくる。(ラプラシアン的なやつは量子力学やら熱伝導やら電磁気学やら画像処理やらで色んな亜種があちこちに出てきおるな。)
普段触れないものたちに出会えて、この練習問題はなかなか面白かった。

―――――・・・

最後に軽く流して、まとまりのなくなったこのメモを終わりにしよう。
開写像定理云々 - らんだむな記憶で触れた$T:\ \mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^3;\ T(x,y,z)=(x,y,0)$は、$R(T) \simeq \mathbb{R}^2$と見て開写像定理を使うと、$\mathbb{R}^3$の開集合を$\mathbb{R}^2$の開集合に射影することが分かる。
例えば、3次元空間内に浮かぶ境界のないドーナツ(2次元トーラス)とかいうキモぃものを考えるとして(要するに中身だけのドーナツとな!?)、これは3次元空間の中の開集合なので、その射影は2次元平面内の開集合ということになる。ドーナツの射影はドーナツの傾き具合によって、平面上に楕円状に射影されたり、真ん中に穴の開いた輪っか状に射影されたりするわけだが、どちらであれとにかく開集合になるのだ、ということが分かる。
$T$は$R(T) \subsetneq \mathbb{R}^3$であってそのままでは開写像定理が使えないが、値域を完備空間として見直すことでこんな風に遊べるので、まぁ、早まらずにどうやったらもっと遊べるか暫し考えてみるのも一興だな、と思う。